商品を扱う企業では定期的に全ての在庫をチェックする「棚卸し」をします。棚卸しは、最低年に1回行うことが義務付けられていますが、実施される頻度は企業次第で異なります。
棚卸しは企業の資産や利益を調査するための重要な作業です。しかし、現場では目的や手順があいまいで迷ったりミスをしてしまったりすることもあるのではないでしょうか。
本記事では棚卸しの目的、作業手順、在庫の評価方法などについて、分かりやすく解説します。ぜひ、この記事を参考に、棚卸しの目的を明確にして作業を進めてください。
目次
棚卸しでは、売れ残った商品の在庫数を確認し、期末商品棚卸高と利益を確定するために行います。ここでは、棚卸しの目的である「帳簿に記載された内容と実際の在庫間に差異がないか」「在庫数と商品の状態が適正か」「期末商品棚卸高を確定する」の3つの目的について、詳細に説明します。
棚卸しの最大の目的は帳簿と実際の在庫を整合させることです。理論上は売上個数と仕入れ個数を比較すれば、帳簿上の在庫を把握可能です。
しかし、帳簿の記載ミスのほか、売れ残りや型落ちが原因で売り物にできない「不良在庫」があることもあり、帳簿上の数値と保管されている在庫数が異なる場合があります。そのため、定期的に在庫を数えて、帳簿と保管されている在庫を整合させる作業が必要です。
また、棚卸しを行うことで双方に違いがある原因が分かれば、原因となる箇所を改善できるため、それ以降の在庫管理の見直しにも効果的です。
在庫管理を適正に保っていれば、万が一の際に販売機会を逃しません。在庫数が少ないと、新しい注文が入った場合に売るものがないという状況になる可能性があるため、販売機会の損失につながります。
また、在庫数が多いと管理費用がかかったり、長期保管の劣化で不良在庫が多くなったりしてしまうほかにも、最終的に利益とみなされる税額が増えてしまうこともデメリットです。売れ行きが悪く仕入時のまま残っている「滞留在庫」や、売れ残り・型落ちで売り物にできない「不良在庫」を洗い出して、定期的に在庫状態を健全化させましょう。
総売上や純利益などを正確に知るためにも棚卸しは重要な作業です。
例えば、1個1,000円で10個仕入れ、1個1,500円で販売した時、10個全て売り切れると利益は(1,500−1,000)円×10個=5,000円と求められます。しかし、2個売れ残った場合の利益は12,000円(売上総額)−(10,000円(仕入総額)−2,000円(在庫))=4,000円です。
期末商品棚卸高が決まると正確な純利益を計算できます。
商品・製品・原材料・副産物・未使用の消耗品・貯蔵品など、在庫として数えられる資産は全て棚卸しの対象です。棚卸しは決算の時期に合わせて1年で1回以上の実施が義務付けられていますが、その他の規定はないため、時期やタイミングは企業ごとに異なります。しかし、棚卸しは商品の数量や品質の状態を適正に保つ上で必要とされるため、半期ごとや月に1回ほどのペースで行っている企業もあります。
棚卸しは対象の資産を全てカウントし、在庫管理表と数量が合っているかを確認します。棚卸しの方式は大きく分けて「リスト方式」「タグ方式」の2種類です。この章では、それぞれの特徴やメリット、デメリットについて詳しく紹介します。
リスト方式は在庫管理表に記載されている数量を元に在庫の数量を確認し、比較する方法です。在庫管理表にあらかじめ記載されている数量を確認してから在庫数を調べるため、作業時間が短く済むことが特徴です。ただし、在庫管理表を元にチェックを行うため、在庫管理表に載っていない種類の在庫に関しては、カウントから漏れてしまう恐れがあります。そのため、棚卸しの前に正確な在庫管理表の作成が重要です。また、最後にチェックから漏れている現物がないかを確認する必要があります。
タグ方式は全ての在庫数を確認して「棚札」と呼ばれる伝票に記載し、現物に漏れなく貼り付け、在庫管理表の数量と比較する方法です。最初に現物を数えてから在庫管理表と数量を比較するため、リストに記載されていない場合のカウント漏れを避けられ、確実に数えられます。一方で、棚札管理に手間がかかったり、全ての現物を数えるために時間がかかったりする点がデメリットです。
これまで、棚卸しの目的や方式について解説してきましたが、この章では、棚卸しを実施する手順について解説します。棚卸しは基本的には以下の5つの手順で行うことが多いとされます。棚卸しの前にしっかりと流れを把握しておくと、慌てずスムーズに行えます。
実地棚卸しとは、商品の在庫数を確認することで、棚卸しではこの作業を最初に実施します。前述した、リスト方式やタグ方式で在庫の数量をカウントするため、それぞれの特性を知った上で、どちらの方式を選ぶかを決めましょう。さまざまな商品を扱っている企業では、短い時間で作業を終わらせるために棚卸し日を定め、一斉に実施します。この際、セクションごとに分業して集計し、最後に全ての商品を集計します。
帳簿棚卸しは帳簿上の在庫数を計算することです。帳簿に記録している販売数や仕入れ数などから在庫数を計算します。毎日、漏れなくしっかりと記録できていれば、帳簿の数量と在庫数は基本的に合致します。
しかし、なぜか数が合わない場合も、しばしばあるでしょう。これは入力ミスや積載ミスなど、意図しない人為的ミスが発生するためです。そのため、帳簿棚卸しだけで棚卸しを完了させてしまわず、実地棚卸しで保管されている在庫数を把握しておくことが重要です。帳簿棚卸しを行うタイミングは実地棚卸しと同時でも、別々に進めても問題はありません。
実地棚卸しと帳簿棚卸しを終えたら、それぞれの在庫数を比較します。在庫数が合わない場合は、どちらかにミスがあるため、ミスの原因を探りましょう。棚卸しでは、カウント漏れや数え間違い、入力ミスなど人為的なミスが起こりやすいため、原因を特定することが重要です。ミスの原因を特定すると次回からの棚卸しの作業に活かせます。何度確認しても在庫数が合わない場合は帳簿上で処理を行って在庫数を確定させます。
決算棚卸しの場合は、当期の売上数についても計算が必要です。在庫数は販売数だけでなく、仕入数次第でも変わるため、仕入数量を含めて売上数量を計算しましょう。
下記の計算式で当期の売上数量が求められます。当期売上数=期首在庫数+当期仕入数ー期末在庫数注意点として、売上の計上額は収入した金額だけでなく、収入の予定がある金額も算定に含みます。販売代金がまだ入金されていなくても、売上への計上が必要です。
決算棚卸しの場合は売上原価の算出までしなければなりません。売上の計上時には、前述した当期売上数の各数量に対応した金額から売上原価を計算します。売上原価は、下記の計算式で求められます。
例えば、前期は1本50円で仕入れたペンが2本売れ残り、今期は1本100円で10本仕入れて、3本売れ残った時の売上原価は以下の通りです。
50円×2本(期首商品棚卸高)+100円×10本(当期仕入高)ー100円×3本(期末商品棚卸高)=800円(売上原価)
棚卸しは対象の資産を全てカウントし、在庫管理表と数量が合っているかを確認しますが、会計上は棚卸資産を金額で計上する必要があります。棚卸資産が、期末時点でどの程度の価値があるかという単価について決めることを「棚卸し在庫の評価」と呼びます。 棚卸し在庫の評価の方法は2種類です。企業はどちらかの方法を1度選択すると、それ以降は選択した方法で評価をし続けなければなりません。この章では、棚卸在庫の評価方法について解説します。
原価法は購入時の金額を元に期末の金額を評価する方法です。
条件
例えば、上記の条件の場合、原価法では購入時の金額を元に計算するため、1本80円として考えます。そのため、棚卸し在庫は以下のように評価されます。
期末の在庫は16本×80円=1,280円
売上原価=期首商品棚卸高+当期仕入高ー期末商品棚卸高より6本×80円+30本×80円ー(16本×80円)=1,600円
利益=売上ー売上原価より20本×100円ー1,600円=400円
原価法は仕入れた時の金額を棚卸資産とします。しかし、同じ商品でも仕入れ価格が異なることもあるため、6つの評価方法があります。ここでは、それぞれの方法について紹介するため、自社の業態に最適な方法を選ぶ参考としてください。
低価法は原価法による評価か期末時価のうち、低い方を選択するという方式です。
条件)
低価法では低い方の金額を元に計算するため、1本60円として考えます。そのため、棚卸し在庫は以下のように評価されます。
期末の在庫は16本×60円=960円
売上原価=期首商品棚卸高+当期仕入高ー期末商品棚卸高より6本×80円+30本×80円ー(16本×50円)=1,920円
利益=売上ー売上原価より20本×100円ー1,920円=80円
棚卸しの際には、どれだけ慎重に行っていても、問題が発生してしまうこともあります。ここでは棚卸しの際に発生する問題について、3例を紹介します。それぞれの問題に対する対応や対策についても紹介するため、ぜひ参考にしてください。
帳簿と実際の在庫数が合わないときは、数え間違いがないか、カウントを忘れてしまった在庫がないか、帳簿の計上漏れがないかを確認しましょう。この際、再度カウントが必要とされるため、非常に時間と手間がかかります。
また、最終的に数が合わない時は帳簿上で処理が必要です。帳簿上での処理を行う際は、実際の数量を元に期末商品棚卸高を計算します。数が合わないと利益にも影響を及ぼすため、ミスをしないためにダブルチェックを行う、在庫管理用のシステムを導入するなどの対策を施し、ミスを無くすようにしましょう。
初期不良があったり、使用期限が切れてしまったり、流行に遅れてしまっていたりという理由で販売できない不良品は資産計上ができません。
不良在庫は以下のどちらかの方法で対応します。
また、なぜ不良在庫になってしまったのかという原因についても究明が必要です。管理の方法で劣化してしまったのか、過剰に仕入をしてしまったのかなど、原因に合わせて以降の仕入れでは対策を行いましょう。
予定していた作業に思っていたよりも時間がかかってしまい、棚卸しが終わらないこともあります。この原因として、管理方法が定まっていないことや日々の検収でミスがあることなどが考えられます。商品の管理方法や置き場所を統一する、仕入時に検収を行い、商品や数量に誤差が出ないようにしておくなどの対策を考えましょう。また、棚卸し時点での数量の増減に影響しない範囲で、早い段階から計画的に作業を始めると、余裕を持って棚卸しを行えます。
棚卸しで問題が発生してしまうと余計な時間や手間がかかってしまいます。ここでは棚卸しの際に注意すべきこと「数え間違い・入力ミスの防止」「実施計画とルールづくり」の2点を紹介します。ぜひ、作業環境の改善に役立ててください。
数え間違いや入力ミスがあると棚卸しに余計な時間や手間がかかります。そのため、普段から検品を確実に行い、帳簿棚卸しと実地棚卸しの誤差を軽減しましょう。仕入時や返品作業など数量に変更があるときは、複数人で行うという対策を取れば、改善につながる可能性があります。また、カウントや入力ミスを防ぐための対策を考えることも重要です。在庫品はバーコードやQRコードなどで機械的に管理する、整理整頓を心がける、商品の置き場を決めておくなど、人為的なミスを起こさないように工夫しましょう。
棚卸しは日程を決めて一斉に行うため、一時的に通常業務が止まってしまいます。そのため、通常業務に支障が出ないように、棚卸しの実施計画を立てておくことが重要です。また、棚卸しの前にルールを統一しておくことも、ミスを起こさないためには重要です。担当者ごとにカウント方法や記載方法が違うと、齟齬が生じてしまいます。棚卸しの際には、あらかじめルールを共有し、統一した方法で実施しましょう。棚卸しの結果をまとめた「棚卸表」は7年間保管することが定められています。そのため、紛失や誤って破棄してしまうことに気をつけて管理する必要があります。
棚卸しの際には、帳簿を正しくつけておくことが非常に重要です。在庫管理システムを導入すると、帳簿に関するミスを減らすことに役立つでしょう。在庫管理システムを導入することには、棚卸しに関するメリットが4つあります。
どれだけ気をつけていても、手作業での入力では、ミスをしてしまうことがあります。しかし、在庫管理システムを利用した、バーコードやQRコードなどでの管理だと帳簿付けの正確化が可能です。また在庫状況を把握できるため、リアルタイムで確認できます。そのため、商品の売れ行きや倉庫のスペースに合わせて在庫管理を最適化できます。
本記事では、棚卸しについて解説しました。 棚卸しは帳簿と在庫の数を整合させ、企業の利益を確定するために重要な作業です。棚卸しの目的と流れを全社員で把握し、共有することでスムーズに実施できます。棚卸しを実施する際にはミスの防止対策にさまざまなルールを作って、可能な限りミスを防ぐことが重要です。在庫管理システムが導入できれば、作業の効率化や人為的ミスの軽減なども可能で、従業員の業務軽減にもつながります。ぜひ、在庫管理システムの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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